この本は神話並と言っても過言ではないだろう。DCコミックスの重鎮Alex Ross氏のペインティングが出来上がる過程を特集したアートブックだ。
この本では彼が作品を作る際に行う下準備の部分を見せてくれる。スケッチ、ストーリーボード、レイアウト、キャラクターデザイン、表紙デザインや、走り書きメモなど。たくさんのスケッチやいくつもの表紙のアイデア等は今回初めて日の目を見るものも多い。スケッチとは言っても白黒のものばかりではなく、全体的な色合いを見るために簡単に色付けを施されたスケッチなども収録されている。Alex Ross氏独特の陰影付けや絵の具の粒状感、原稿の風合いを極限まで印刷に再現していることも特筆すべき点だろう。
陰影付けをペイントする前の鉛筆線画の最終段階ではいかに彼が輪郭線や物の形などを重視しているかが見て取れる。DCコミックスの主要なキャラクター達がほとんど集結している。バットマン、スーパーマン、ワンダーウーマン、アクアマン、ザ・フラッシュ、グリーンランタン、ブラックキャナリーなど他にも多数。しかしキャラクターだけのスケッチ本というわけではない。ジャスティス・バットモービルのデザイン画や、彼がリテラシーキャンペーンの為にデザインしたロゴやコンセプト画なども見ることができる(バットマンが高層ビル屋上のガーゴイル像にて佇む絵がそれにあたる)。
前作のアートブックで彼のペインティングをよく見ていたにも関わらず、それらの鉛筆画を見てもすぐに分からないほど別物に見える。しかし誤解しないでほしい。彼の作品の特徴である考え抜かれたリアリズムは全てのページにしっかりと息づいており、筋肉の構造、画面構成、ライティング、顔の表情、全体のムードや布物の垂れ下がる具合いに至るまでとてつもない注意が払われていることが見て取れる。
スケッチに添えられた手書きのメモに加え、Alex Ross氏本人によるデザインについての考察、クリエイティブになるためのプロセスや最終的には出版まで至らなかったデザインなどについての注釈もある。
ファンに限らず、アーティストの方にもとてもお勧めだ。
五つ星ならぬ五つ鉛筆。
ハードカバー: 224ページ
出版社: Pantheon
言語 英語
ISBN-10: 0375714901
ISBN-13: 978-0375714900
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